私たちにとって耐久性とは、使用されるすべての素材が同じく高品質であることを意味します。
DYCOSHELL®ファブリックの開発は、次の2つの疑問から始まりました。
1)TRANSIT LINEに使用したい生地は何か?
2)今後、サステナビリティという側面からどのようにアプローチしていくか?
私たちの目標を達成するためには単に既存の生地を使用するだけではダメだということがすぐにわかりました。その代わりに、私たちは理想とする作品を完成させる為に基礎となる独自の素材を開発する事に時間と情熱を注ぎ込んできました。私たちの目標は商品開発するためだけの素材開発をすることではなく、
私たちの素材への想いを表現することです。この特別な素材の条件を定義するとき、耐久性と持続可能性の両方が最も重要な要素として明らかになりました。
「耐久性」
私たちにとって耐久性とは使用されているすべての素材が同く「高品質」であることです。特にジッパーや素材などの消耗品は美的価値や機能性を損なうことなく、長年の酷使にも耐えなければならないからです。素材については、耐摩耗性が最も重要なポイントでした。
「サステイナビリティ」
サステナビリティに関して開発当初はそれほど方向性が明確ではありませんでした。私たちは、生地のサプライヤーに連絡を取り(いくつかの新しいサプライヤーとも連絡を取りました)、私たちの要求を満たすサステナブルな生地の問題について話し合いました。さまざまなリサイクル方法を専門とする人たちに相談すると同時に、耐摩耗性のある生地について調べ、両方の側面を兼ね備えたものを探しました。いくつかの興味深い生地にも出会いましたが、ほとんどはリサイクル方法が透明性に欠けるため、まだ私たちを納得させるまでには至っていません。例えば、ペットボトルのリサイクルは大量のエネルギーを浪費しますし、出来上がったポリエステル生地は、ポリエステル100%の生地(特にバックパック用)と同じ耐久性を発揮するわけではありませんでした。
漁網やカーペットなどの廃棄物のリサイクルも同様に大変で、ポリエチレンやポリプロピレンなど他のプラスチックが混ざっていることもよくあります。繊維の長さや分子量の違いにより、異なる出所からのリサイクルはさらに難しくなっています。また、リサイクルされた材料は、新しい顆粒から作られた材料ほど弾力性がないことが多いことを認めるメーカーもあります。リサイクル材は、元の材料よりはるかにコストが高く、耐久性も劣ることが多いのです。つまり、高い値段の割に得られるものが少ないのです。
「私たちは長期的なリサイクルを信じています」
私たちは、リサイクルはサスティナブル製品のライフサイクルにとってかけがえのない要素であると信じており、今後の開発にそれを組み込んでいく努力を続けていきます。現時点では、より少なく、しかしより優れた繊維を使って製品を生産することが、私たちにとって正しい方法であると信じています。そのため、私たちは非常に丈夫で耐摩耗性に優れた繊維を探し、この目的のために、耐久性と耐摩耗性に優れていると考えられるさまざまな生地をテストしてきました。こうしたすべての知見が、最終的に私たちのベースとなる素材の基準を決定づけたのです。世界中の軍や法的執行機関で使用されている生地も含め、これまで使用してきたどの生地よりも耐摩耗性を高めたいと考えました。しかしそれは簡単なことではありません。
ナイロン6.6とUHMWPE(超高分子量ポリエチレン)は、驚異的な引張強度を持ち、非常に破れにくい製品によく使われる素材ですが、いくつかの試作で、この2つを組み合わせました。この2つの組み合わせを数え切れないほど試行錯誤してきましたが、ある一点を超えることはできず、耐摩耗性の向上と素材の多用は不釣り合いなものでした。これまで、私たちのために特別に作られた生地配合で100種類以上の摩耗試験を行っても、異素材の組み合わせは(一定以上の糸の太さ)難しいことが分かっていました。しかし、最も有望だったのは、特殊な加工を施し、撚りをかけたナイロン糸で、しっかりと織り上げ、生地に防水加工を施しながら、動きの自由度を残した特殊なコーティングを施したものでした。
その結果、ようやく私たちが求める耐摩耗性を満たしながらも、研究所の外でも摩耗によるダメージを避けることができ、柔らかく、肌触りのよい丈夫な生地が出来上がりました。ナイロンのリサイクル工程はエネルギーと資源を大量に消費することが判明したため、私たちは新しいファブリックの初期導入量を削減する別の方法を探しました。そこで、さまざまなメーカーに問い合わせたところ、ある工程が目に留まりました。それが「ドープ・ダイイング」です。
(通常の製品染色に比べて省エネ)
「スピン染色とは?」
ドープダイイングとは化学薬品と水による布の染色を単純に省略したプロセスです。通常の布は織った後、色によって異なる液体物質に触れさせます。この染色工程だけで布地生産全体で使用される水の約89%を消費します。
エネルギー消費量(60%)、CO2排出量(65%)、化学物質消費量(63%)についても同様です。つまり通常の染色は生地生産工程の中で最も資源を消費し、環境負荷の高い工程なのです。従来の生地と同様原料は顆粒状に加工され熱で押し出されます。
その結果一本の細い連続したフィラメントができる。これをもとに糸を紡ぐのだが紡いだフィラメントの本数によって太さが異なる糸ができる。通常このフィラメントは透明から白色で「グレージュ」とも呼ばれる「オフホワイト」のような色合いになります。
ドープダイイングでは無色の粒を着色粒と混合してから押し出すのでフィラメントはあらかじめ決められた色で直接押し出されます。織物ではすでに着色された糸がまったく染色することなく布に織られます。今回は「ブラック」と「キャッスルロックグレー」という微妙に異なる色の糸を選んだことで「ドロップダイイング」の原理を視覚化するだけでなく通常の染色された単体素材では出せない色の深みを生地に与えることができました。
ドープダイイングにはもうひとつ大きなメリットがあります。よく例に出されるのがニンジンとダイコンの比較です。ダイコンはフライシートが1色しかありませんがニンジンは芯までオレンジ色をしています。これはドープダイイングでも同じでニンジンと同じように糸まで色がついています。そのため摩擦や紫外線による色あせや変色にも非常に強くなっています。またカーペットの場合、摩擦にさらされるためすぐに色あせしてしまいますが同じ工程を経ています。
「最終段階」
2018年の計画に沿って今回基材の組成をさらに改良し「DYECOSHELL™」と名付けた別のバージョンを生地のラインナップに追加しました。オリジナル生地の改良版はDYECOShell Iと呼ばれ、840Dナイロン×660Dナイロン、100%ドープダイイング、3xPUコーティング(内側)+DWR(C6)コーティング(外側)で構成されるようになりました。
また同じ素材でより軽量な「DYECOShell II」もあります。420Dナイロン×330Dナイロン、100%経糸染色、3xPUコーティング(内側)+DWR(C6)コーティング(外側)。
現時点では、どちらの生地も2つの(糸の)色の組み合わせで提供されています。オリジナルは生産の違いを示すためにBlack/Castlerockで2番目の最新作はBlack/Blackです。 私たちは染色工程に支障があっても他の色の組み合わせを追加していくつもりです。
DYECOSHELL™ファブリックは今後も進化を続け徐々にポートフォリオを拡大していく予定です。新しい素材、さまざまなコーティング、最新の技術によって私たちの美的感覚を失うことなくより耐久性があり持続可能な製品に仕上げていきます。
DYECOSHELL™の生地だけでなく通常の生地も順次ドープダイイングに置き換えています。例えばTransiy Lineの裏地はすべてドープダイイングされたポリエステルでできています。
私たちはまだすべての可能性を使い切ったわけではなく、特にサステナビリティに関してはまだまだやるべきことがあると認識していますが、常に新しいリサイクル手法や省資源型の生産工程に目を向け、改善を求めていきたいと考えています。